
五臓の病証③ー心
五臓の病証(全6回)。第3回目は「心(しん)の病証」についてです。胸に現れる症状は、死を連想させてしまうので何とも言えない不安があるものです。
(1)心の働き
心の主な働きは血の循環です。心が止まり全身に血を送る事ができなければ人は死んでしまいます(当然ですが)。それだけ重要な臓であるため「君主の官」と呼ばれています。また精神活動を主宰するのも心の働きなので、心(こころ)の病は「心の病証」と言えます。
(2)心の病証
心には陽気(温煦作用がある活動的な気)が多いのですが、「心の病証」は他臓の虚により発生した熱や冷えを受け、その陽気の量が増減する事で起こります。陽気が多くなった状態を「心熱(しんねつ)」、少なくなった状態を「心寒(しんかん)」と言います。
補足:他の臓においては「●虚」という言葉を使いますが、経絡治療では「心虚」という言葉はほとんど使いません。なぜなら「心虚=死」と考えるからです。他方、中医学には「心気虚」や「心血虚」などの名称があって初学者は混乱しやすいです。
※経絡治療と中医学の違い⇒過去ブログ「鍼灸について」をご覧下さい。
①心熱
高血圧、胸の熱感や痛み、動悸などは心熱によるものが多いです。実は心熱になる原因は「他臓の虚で発生した熱を受ける」だけではありません。こんなパターンもあるのです。
全身の冷えが強い場合、心まで冷える(陽気が無くなる)と死んでしまいます。そこで通常は上半身(胸)に陽気(熱)を残すという反応が起こります。これにより下半身(腹部以下)は冷えるが上半身は熱くのぼせるという症状が現れます。これを「上熱下寒」と呼ぶのですが、これに伴い動悸などの心熱症状が現れたりするのです。この時の熱は、冷えにより追いやられたものなので無理矢理「抜く」という事はせず、冷えに対する治療をする事で抑えます。
②心寒
心寒と言っても心が冷えている状態というより、通常より心の陽気の量が少ない状態と理解して下さい。心が完全に冷えてしまうと死んでしまうので…。この場合の症状としては低血圧、胸の痛み、動悸などがあります。但し、胸の痛みが背中にまで響く場合は重症と考えられるため、その時は専門医に相談して下さい。
以上が「心の病証」です。ちなみに心包(しんぽう)という臓がありますが、これは心を包む膜であり、心の代わりに病を受けて守る…という働きがある事から「臣使の官」と呼ばれています。古典治療をする先生の中には「心は君主だから心経を使うなんて恐れ多い!」みたいな感じで、心経の代わりに心包経を使って治療する方もいらっしゃいます。面白いでしょ? 次回は「脾の病証」です。