
五臓の病証②ー肝
五臓の病証(全6回)。第2回目は「肝の病証」についてです。治療をやっていて一番多い病証かな?…と個人的には感じています。
(1)肝の働き
肝の主な働きは蔵血(ぞうけつ)です。蔵血とは血(けつ)を貯蔵する事ですが、肝は血を充分に貯蔵する事でその機能を発揮させる事ができます。だから貯蔵する血が少ないと肝の働きが弱まってしまうのです。この状態を肝虚と呼ぶのですが、血の量が少ない事で起こるので「肝虚=血虚」と言えるのです。詳しくは解説しませんが、同じ血虚でも熱と冷えが生じるパターンがありますので、それを踏まえて以下の「肝の病証」をご覧下さい。
(2)肝の病証
①筋肉疾患
肝は筋を主る(つかさどる)と言われ、肝は筋を支配します。従って各種の筋肉疾患は肝虚が多いです。例えばこむら返りは筋の血不足が原因です。或いは、普段から血不足が続いていると筋が固くなりコリとなって現れます。また、そのような状態では、ちょっとした動作で筋を強く痛めてしまう事もあるのです。ギックリ腰はその代表例と言えるでしょう。
②側頭部痛
肝と胆は表裏関係で、胆の経絡(=胆経)は側頭部を巡ります。従って、肝虚による熱や冷えが胆経に波及すると側頭部痛となります。多くの方が「コメカミ辺りが痛む」と訴えます。
③不眠
不眠の原因は様々ですが、肝虚による不眠もあります。古典の記載には「夜、血が多量に肝に入る事で眠れるようになる」とあります。肝虚の状態では、夜になっても肝に入る血が少ないので不眠になる…というワケです。
④イライラ
肝には「物事を計画的に行う」という精神的作用もあります。肝が「将軍の官」と呼ばれる所以です。肝虚ではこの力が衰えているので物事をうまく進める事ができません。だからイライラするのです。ちなみに胆には「決断する」という精神的作用があるのですが、肝虚による冷えが胆に波及すると決断力が下がります。買い物をしていて何を買おうかよく悩むという人は、この病態の可能性があります。
⑤婦人病
肝経は子宮を巡っています。だから各種の婦人病は、肝虚による熱や冷えが子宮に波及して起こる事が多いです。特に子宮の冷えは不妊症になりやすいと言われています。
⑥眼疾患
肝は目に開竅(かいきょう)すると言われるので、眼球に現れる症状(白内障など)は肝虚と考えられます。当院で多く対応しているのは目の血不足による眼精疲労です。
以上が「肝の病証」です。昔、ある勉強会で古典治療の大先生が「若けりゃ肝虚、年寄りは腎虚だ!」とおっしゃっていたのが、今でも印象に残っています(笑)。なんでも若い人は、活動的で血を多く消耗するため肝虚になりやすいのだとか…。次回は「心の病証」です。